薬本来の目的以外でステロイドを使用していませんか?
前回の記事では、罪悪感を抱きつつステロイドを塗る方がとても多いことをお伝えしました。
私は相談者様からよくお聴きするのです。「ステロイドを塗るのが、うしろめたいのです」と。
「具体的に教えてください。それはどういうことですか?」と質問しますとこのようなお返事をいただきます。
「肌が赤くなったら、ついつい薬を塗ってしまう。でも、ステロイドには副作用がある」
「副作用があることを知りながら塗ることに罪悪感を感じるのです」
治すためにやっているのに、罪悪感を感じるなんて……。
とても切ない。切ないですよね。
ではなぜ、副作用を恐れながらも「ステロイドをお守りのように持っています」といった具合に薬が手放せなくなるのでしょうか?
それは「アトピーであることを見られる・知られることが辛いし恥ずかしい。だからステロイドをついつい塗り続けてしまう」気持ちが少なからずあるからではないか?
と、この前のブログで私は書きました。
もちろん、ステロイドの特性ゆえに「薬をやめたいけどやめることができない」状態におちいるのも事実です。
ですが、ここでは別の側面を取り上げます。
(なぜ、ステロイドやプロトピックといった免疫抑制剤の使用は中止しにくいのか?その理由は薬の特性にあります。このことについては必読記事⇒アトピーにステロイドが効かなくなる明確な理由とは?をお読みください)
さて、
アトピーの方のご相談に応じておりますと、ステロイドを塗る目的が「治癒のためだけではない」ことがわかります。
つまり、
「赤い顔を見られるのが辛い」
「掻いているのを見られたくない」
「ひざ裏のアトピーが気になる」
といったお声をステロイドを長年塗っておられる方からお聴きするのです。
アトピーであることを誰かに見られるのが恥ずかしい。だから、ステロイドを塗る。そのような方は多いのではないでしょうか?
お気持ちはよくわかります。しかし、恥ずかしさを避けるために薬を塗る行為は、薬本来の目的・役割に合致していないのです。このことに気づいてください。ステロイドは美白化粧品とは違うのだから。
しかし、そうはいっても、なぜ恥ずかしく感じるのでしょうか?
それは他人からどう見られているのか、どう思われているのかを気にしているためですよね。
つまり、恥の感情が生じるには、他者からの目線があり、他者との関係があってはじめて成り立つことがわかります。
そして、この記事でテーマにしたいのが、さらに深まった恥の感情です。
では「さらに深まった恥の感情」……とはなんでしょうか?
それは、自己否定感に似た「人の存在そのものに関わる恥の感情」なのです。
人の存在そのものに関わる、すなわち中核となる恥の感情であることから、これを”コアな恥の感情”(コア・シェイム)ともいいます。
こうした「コアな恥の感情」を私は相談者からお聴きすることがあります。
たとえば、「アトピーである私は悪い感じがする。いけない感じがするし、ダメだなって思う」「ずっと親にアトピーで世話になってきた。そんな自分って迷惑だっただろうに」といった具合です。
長くアトピーを抱えてしまうとコアな恥の感情もまた心に抱きやすいように思えます。
そしてまた、ステロイドとの関わり方についても「ステロイドを塗らないと落ち着かない」「カバンの中に入れて持ち歩かないと不安」「ステロイドを塗ると心が安心します」といった内心を吐露される方が実に多い。
ここから見えてくるのが、恥の感情が自己存在の否定へと深まれば、心を落ち着かせるために塗るといった薬への依存もさらに深まるのではないか、ということです。
自己否定感を払拭するために薬を使っているならば、それは薬本来の目的・役割から逸脱しています。そしておのずと、ステロイドの連用・継続使用を容易にし、副作用の弊害が大きくなるでしょう。
副作用による皮膚のダメージは強まりアトピー性皮膚炎は悪化。ますますステロイドをやめることが難しくなると想像できます。
ですから、誰かに見られるのが恥ずかしいといった感情もさることながら、コアな恥の感情も放置できないと思うのです。
では次の章からは恥の感情について深く分け入ってみることにします。
その恥はあなたのものではない
これからもっと具体的に恥の感情についてお話します。
しかし、そうはいっても、「恥」について書こうとすると大変な分量になります。
なぜならば、日本固有の社会的価値観によって引き起こされる恥まで考慮しないといけないからです。
この国に生きている以上、この国の歴史や文化の影響から逃れることはできません。
それこそ文化人類学者ルース=ベネディクトが日本文化を論じた「菊と刀」を下敷きにしなければなりますまい。
そして、とても苦しいお気持ちであられる方もおられましょうから、ほんのさわりだけにいたしましょう。
そもそも「恥」という感情は喜びや悲しみ、怒りと同じく自然に湧き上がるものです。
幼いお子さんがお母さんの後ろにさっと隠れてしまう。これは幼い子が恥じらい・戸惑いを感じたからでしょう。自意識の始まりとともに恥の感情が芽生えるわけです。
大人になっても恥ずかしいと感じることはありますよね。
慣れない場所で「どぎまぎ」したり、好意を寄せる人に話しかけた時の「恥じらい」、たくさんの人がいる前でちょっとした間違いをして「顔を赤くしてしまったり」、初対面の相手と接する時に感じる「とまどい」、これらの感情は他者との関係によって生じ、自然と湧き上がる”自意識”ゆえのものです。
こういった自然に湧き上がる自意識感情としての恥とは、「喜び」「怒り」「悲しい」「嬉しい」と同じく基本の感情なのです。
自然と湧き上がる恥の感情はそのまま感じてもいいのです。なにも問題はありません。
ですが、
自分はダメだ。自分は悪い存在だ。人と違う自分はおかしい。自分は情けない……こうした「人の存在そのものに関わるコアな恥の感情」と「基本感情としての恥」は事情が違います。
つまり、コアな恥の感情は「外から植え付けられた」ものであって自然に湧き上がるものではないからです。そして、コアな恥の感情はあなたを過酷に責めて傷をつけます。
そもそも感情があなたの存在を傷つけたりはしません。
ですが、コアな恥の感情は自己を否定し自責の念を抱かせます。
社会的な価値観といった外的基準に照らし合わせることで、自分の存在そのものを恥と感じてしまう。これがコアな恥の感情の正体です。
ではここで、「コア・シェイム」と「アトピー」を関連付けるために、
アトピーの方がご自身の存在についてどんなイメージをお持ちなのか? について語ってみたいと思います。
ここでは私の場合を例にしましょう。
私が大学生だった頃のことをお話ししましょう。
職場から帰る夜道、「俺はダメだ。ダメだ」とつぶやきながら歩いていました。
情けない自分。他人と同じ行動ができないダメな自分。他人と分かり合えない自分を卑下しておりました。
アトピーで思い通りにいかない身体なので、同年代の学生のようなキラキラした快活さとは無縁でした。
年齢の割には老け込んでいる自分は世界から切り離されたように思えました。
好きな女性から「老人みたいな皴だらけの手だね」といわれたりして、自尊心はズタズタに傷ついていました。
自分を恥ずかしく思う理由はアトピーだけではありません。
私の家はそんなに豊かでなく大学生なのに働きながら夜間大学に通学していました。
大学生だけど給料を家に入れなければならない。そんな自分を他の大学生と比べてみては、自分のことをみすぼらしく感じていました。
いつもいつも……「こんな自分は情けなくてダメな奴だ」「自分なんか誰にも分ってもらえない」「俺は情けないよな」「俺は普通じゃない」という自分を貶める言葉がマントラのように頭の中で渦巻いていました。
しかし、
だからといって、
この男性は(私のことですが)自分の存在を恥ずかしいものだと断じてしまっていいのでしょうか?
いいえ。恥だと思うことはありません。
だって、その恥は自分のものではないからです。
社会的な価値観等によって植え付けられたものだからです。
ましてや、自分の存在そのものを傷つける必要はまったくない。
社会的な価値観に照らして自分を情けなく思う必要はありません。恥ずかしいと思う必要はありません。
まずは自分です。自分はどう想うか? どう想いたいか? これがなによりも大切です。
唯一無二の自分という存在を、ただただ社会的価値観のみで推し量っていいのでしょうか? 良いはずありません。
社会的な価値観は必ず変化します。変化するものに、いちいち自己の評価を上げ下げしていては、何のために生きているかわからなくなるでしょう。
もし、外部の価値観やルールで自分の存在の価値を決めたらどうなるでしょうか?
自分の人生を生きているとはいえません。他人の言葉を自分の意見・想いにして生きるわけですから。頑張っても報われない気分にさいなまれるでしょう。そして、悩みは深まるでしょう。
だから、「アトピーである自分は恥ずかしい! だから炎症を薬で一網打尽にしたい!」なんて思わないでください。恥なんかではないから。その恥は「あなた」ではないから。
アトピーである自分は恥ずかしいと思えば思うほど薬を手放すことができず副作用に思い悩みながら依存を深めていくことになりかねませんよ。
何度も強調して繰り返してあなたにいいます。
あなたが何を想い、何を想いたいか。これが大事です。
あなたが何を想っているか。それがあなたの世界だから。
あなたが何を想い、何を想いたいか。
さもなくば、
もうお分かりでしょう。人目を気にして生きることになりましょう。
アトピーだから他人を気にしないと生きられない……そんなことはありません。
これからは、恥の感情を覚えたら、「これは自然に湧き上がってきているものかな? 」「社会の要請にこたえられない自分を咎めているからかな?」と、ご自身の心に意識を向けてみてください。
ちょっと難しい話、デリケートな話になってしまったかも知れません。
お役に立てれば幸いです。
(注)なぜ皮膚科でステロイドを処方されるかご存知ですか? ステロイドの意味を知らないまま連用使用するのはリスクがあります。
ましてや、心を落ち着かせるためにステロイドを使用するのは薬の目的から逸脱しています。
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アトピー解放心理セラピスト
特定非営利活動法人 日本成人病予防協会会員 渡辺 勲
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